ベルリン -The Feuerle Collection-

こんにちは。 フランス・パリに留学中のTakuroです。


建築はアートではないので、“アートメディア”に記事を書くにあたって多少異色な記事になってしまうことをご了承ください。
私の専門である建築設計を主軸に、フランスに限らずヨーロッパに存在する魅力的な建築やアートをご紹介させていただきます。

 

今回はドイツのベルリンにある"The Feuerle Collection"というデジレ・フォイエルレ (Désiré Feuerle)氏の個人美術館をご紹介します(2016年オープン)。

この美術館はweb予約制であり、一日4回のタイムスケジュール(1枠14人が上限)で、展示物や建築の説明をしてくださる案内人が1人つきます。コレクションは中国やカンボジアの古美術と現代美術を併置しています。私が訪問した時は、友人を含め3人のみの見学だったのでほぼ貸し切り状態で、さらに案内人が(おそらくたまたま)日本人であったため、日本語での解説をしてくださいました。入館料は18€です[学生は11€]。館内は撮影禁止となっていたので、掲載している内観写真はほぼ引用です。

 

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http://artas引用:[iapacific.com/image_columns/0028/5752/0b._1016_cf022102__photo__def_image_.jpg]



 

この美術館は第二次世界大戦中に建設された情報通信バンカー(地上1階、地下1階)をコレクターであるフォイエルレ氏が買い取り、ミニマルなデザインを得意とするイギリスの建築家ジョン・ポーソンが改修したもの。

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増築したオフィス部分と既存部分の屋上をつなげる階段のディテールが美しい。

ここからはこの美術館の空間や展示内容を体験的に記述するので、平面図を参照されたい。

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地下1階平面図 引用:http://afasiaarchzine.com/2016/11/john-pawson-29/john-pawson-the-feuerle-collection-berlin-3-2/



 小さな明かりを片手にした案内人に連れられ、階段を降り、地下へと進むと何も見えない真っ暗な空間でジョン・ケイジ Music for Piano #20 (1953) を聴く [02.Sound room]。この時間は暗闇に目を慣らす時間であるとともに、コレクションを見る前の高揚感が得られる時間であった。曲が終わると展示室に案内される。

荒々しいコンクリートの大空間に、たくさんの巨大な柱が落ちている [01.Exhibition space]。展示物に当たるスポットライトだけが光源であるため、薄暗い空間に展示物だけが浮き上がるような感覚である。換気ファンの音だけが響く空間のなか、気になった展示物にだけ案内人から小さな声で解説をしてもらうというスタイルである。地下のコレクションは7世紀から13世紀のカンボジアのクメール彫刻、荒木 経惟のエロティックな写真などの現代美術等、ただただ美しいと感じられるものを、時代場所関係なく体感できる。地下階の約半分は、ガラスで仕切られ、その向こう側はすべて水盤となっている [03.Lake room]。これはカンボジアアンコール・ワットのそれであり、クメール芸術を空間とともに体感できる。

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引用:https://www.archdaily.com/798637/the-feuerle-collection-john-pawson

 

また、地下には、2017年10月にオープンしたIncense roomという「香の儀式」を行う特別な部屋 [04.Incense room] があり、最高級の香木(案内人が言うには1グラム200万円相当らしい)から立ちのぼる香によって身体と心を落ち着け、展示品を眺めることができるようだ 。※別途予約250€~1000€、定員4名

この部屋にある香の儀式のための机と椅子も、ジョン・ポーソンがデザインを手掛けている。

 

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引用:https://www.designboom.com/architecture/feuerle-collection-berlin-incense-room-john-pawson-10-12-2017/

つぎに地下階の展示室を抜け、地上階に上がる。

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1階平面図 引用:http://afasiaarchzine.com/2016/11/john-pawson-29/john-pawson-the-feuerle-collection-berlin-3-2/

地上階のコレクションは、紀元前2世紀から紀元後18世紀の漢から清時代にわたって制作された家具と、現代美術である。

 

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引用:https://www.cobosocial.com/dossiers/feuerle-collection-berlin-bunker/

 

地上階出口付近にある作品はジェームス・リー・バイアーズの遺作である「The Perfect Death」。この美術館の最後を飾るにふさわしい作品である。

 

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James Lee Byars, [The Perfect Death] 引用:https://frieze.com/article/importance-past-and-importance-today

この作品は歴史的なウンブリアの読書台であるが、この読書台の中央に2ミリほどの小さな穴が開いており、そこに文字が印刷されている。(小さなドットで100回ほど印刷しなければならなかったとか)何が書いてあるかは実際に行って案内人に聞くことをお勧めする。目視するのは難しい。

 

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 改修の手法としての新しさは感じないものの、美術品を見る体験として、個人美術館として、自分が今まで経験した中では最上のものであった。また、フォイエルレ氏の大切なコレクションをバンカーならではの3500㎜の壁厚でできた建築に格納している様は、建築の起源であるシェルターの美術品版のように思え、極上感を増長させるのである。

 

 ベルリンに足を運んだ際には是非とも行っていただきたい建築である。